田鶴浜のお葬式

  今日的には、仏教と葬儀は切っても切れない関係のように思われますが僧侶が葬儀にかかわるようになったのは江戸時代のことで檀家制度ができてからです。檀家制度によって宗旨人別帳による戸籍の管理が、好むと好まないにかかわらず寺院に課せられ、検死・葬儀・除籍といったことを僧侶にさせるようになり、約200年の長きにわたって社会制度として定着し、明治のキリシタン禁制令の廃止と同時に制度としては効力を失うのですが、人々の日常生活の中に制度として定着したことで、仏教と葬儀が一体感を持つようになり今日まで続いているのです。

 また、お葬式の習慣は集落を出た途端に微妙に異なります。宗派によってもその違いがあります。一集落に火葬場が必ずあった時代は地域住民の手によって、一連の葬儀の儀式は伝統的に受け継がれていたのですが私たちの田鶴浜でも昭和40年から七尾鹿島広域圏事務組合による共同斎場の新設により集落の火葬場が使用されなくなると同時に、葬儀に関する地域の習慣も次第に忘れ去られてしまいました。

 特に、これが正しいとか、あれが正しいと言ったものはありません。葬儀の事を知りたければ、今はいろいろな本があります。また、インターネットでも「葬儀」と検索すればかなりの数がヒットしてくれます。ご丁寧に、お布施の指導までしてくれるサイトもあります。

 ただ、私たち浄土真宗の葬儀となれば、通俗的な仏式による葬儀の作法や習慣と少し違いがあります。さらに、田鶴浜と言う地域に育まれてきた習慣もあります。せっかく、自らご縁をいただいた浄土真宗の儀式作法で故人の葬儀を執り行うならば、その諸作法の意味合いを少しでも理解し、自信を持って儀儀の執行に望みたいものです。

 そんなことから、本ページを公開することにしました。本ページの基本は、浄土真宗の葬儀について、約10年前に能登教区第14組南部若手僧侶学習会「我聞会」が編集をしたもので、今回の公開にあたり田鶴浜地区用に少し一部アレンジをさせていただきました 。

 

   T 命終(みょうじゅう)-亡くなられたとき-

  • まずお内仏を開き、灯明をつけ遺骸をお内仏の近く(横、ある
    いは前)に安置します。お内仏とは、お仏壇のこと・灯明とは、
    輪灯のことです。

     お内仏が無い場合は、お寺から御本尊(無上仏)を借り受け
    て床の間に掛けてその前に遺骸を安置する。本尊の前には卓
    を置き、その上に打敷をかけ三具足(花立て、香炉、ローソク
    立て)を置く。打敷は、白か灰色・茶色のものをかける。花はシ
    キミなどの青物を立てる。(シキミ、サカキ、アセビなどの木花、
    無色花)

     お内仏の荘厳については、平常の荘厳のままで良いことに
    なっています。しかし、この土地の習慣として、この時すでに打
    敷は白にして花はシキミなどの青物に取りかえています。白い
    打敷が無い場合は、白い布で作るか平常使っている打敷の裏
    を出して代用します。葬儀であるから裏にするというのは間違
    いです。

  • 遺骸は北枕(頭北面西右脇臥)に寝かせ、清潔な布団か衣服
    を被せます。手は胸上に組んで数珠をかけます(合掌の姿)。
    顔は白さらしの面布で覆います。

 

● 北枕とは、釈尊ご入滅の姿にならってのことであります。   その意味あいは、常に浄土を課題とする歩みが、釈尊の全 生涯であったことをあらわすものであります。
   単に形だけにとらわれすぎず、その意味あいを味わう事   が大切です。一般的には、お内仏を西として考えていく。

 ● 部屋全体を、葬場としてふさわしい場所にするために、    掛け軸は法語や仏画を掛け(南無阿弥陀の名号軸は必要   ありません)それ以外のものや特に華美なものは撤去しま    す。白紙を貼ることは避けたい。
     人形に 白紙を貼ってあるのを見ることもありますが必要   ありません。
   生花 も特に必要ありません。 衣服を逆さまに被せたり、   屏風を逆さまにしたりもしません。

  ● 遺骸の上に魔よけに守り刀や剃刀・鎌などの刃物を置い てあるのを見かけますが、必要のないことです。

  • 遺骸の枕辺に卓(机)を置き、一基の灯明(ローソク)と香炉を
    用意して「不断香」を燃ずる。不断香とは、香を断やさないよう
    にすることです。この時、線香は立てません。真宗では線香を
    立てて使うことはありません。必ず折って寝かせて使います。

●お線香は立てません。

 



   ● 枕辺の卓の上に、三折本尊を置いてあることがあります   が、お内仏があれば必要ありません。ここでの灯明は、別れ  に訪れた方々に遺骸の顔がよく見える ためのものであり、  香は死臭を消すためのものです。
   また、水や一膳飯に箸を立てたものや団子が供えられて  いたりしますが、これは他宗の習慣であり真宗ではいたし  ません。
   また、故人が好きだったとかで、お酒のワンカップやタバコ  などを置いてあることがありますが必要ありません

  ●  お内仏のお仏供(おぶく)は、平常通り朝のお勤めすぎ  に供えて、正午に撤去します。遺骸の前の卓に供えていま  すが必要ありません。

●こんなにあるいらないもの。

 

  • 以上の準備が終ったら、お手次ぎのお寺に連絡し「枕直しの勤行」
    (枕経)をお願いします。

 
● お寺に行くときは、お寺の出入りは本堂から行い、ご本    尊に挨拶を済ませてから住職に故人が亡くなられたことを    報告し、葬儀の執行をお願いいたします。この土地の習慣    として白米二升を袋の口を結ばずにお寺に持参します。
  御本尊に、故人が亡くなったことを報告していただくため    に、お仏飯を供え読経をお願いするという意味のお仏供米    だそうです。
  袋の口を結ばないのは、慌てている証なのだとかー。

 


            U 枕直しの勤行(枕経)

  • 住職と遺族、参詣者共々御本尊に向かって正信偈を唱和いたします。
  • お勤めは、正信偈舌々・短念仏・回向。
  • 仏前の用意は、白の和ロウソクを灯し燃香します。

● 本来は葬儀終了までお勤めは正信偈ですが、 この土 地では阿弥陀経をあげます。  

 

  • 枕経の後、出来る限り住職と葬儀終了までの打ち合わせをしてお
    きます。

 
※ 打ち合わせ事項

 ● 湯灌(入棺)、通夜、葬儀の日時。
 ● 土地の習慣によって通夜の勤行や入棺時の勤行を略す る場合があるので、どうするか打ち合わせをしておきます。
 ● 招待僧(諷経僧)の人数。本山代香をお願いするか、しな いか。ただし。相続講員に限ります。
 ● 七条袈裟(棺掛け)、をお寺へ借り受けに行く日時を確認 します。
 ● 生前中に「帰敬式」(おかみそり)を受けているかいない   か。法名があれば出しておく。なければ葬儀までにお手次    ぎの住職にお願いして法名をつけてもらいます。
 ● 院号をつけるかつけないか。院号は法義相続・本廟護持 を目的とする「相続講制度」の賞典であり、功績のあった方   に対しておくられます。法名そのものとは別物で、院号のあ   る方が良い法名だとか、長い法名が良いと考えたり、言っ    たりすることは、むしろ真宗精神に反します。
 ● 法名は真宗門徒としての名告りの名前です。戒名という のは他宗で使う言葉で真宗では用いません。信士・居士・    信女大姉などの位号も用いません。
 ● 位牌は、儒教からはじまったもので、亡くなった人の生前 中の官位生姓名を書きあらわしたもので、真宗では用いま   せん。
 

 


            V 湯灌(ゆがん)・入棺勤行

  • 通夜の前に近親者で遺骸を白服に着替え、手を胸上に組ませて数
    珠を持たせます。(合掌の姿)遺骸を、湯をもって浄めたことから湯
    灌と言います。
     故人が生前に使っていたものなどを、上から軽く掛けて肩衣(かた
    ぎぬ)があれば着用させます。(仏弟子の姿をとります)
  • 以上が終ったら納棺し、七条袈裟(棺掛)で棺を覆いお内仏の近く
    (前、あるいは横)に安置します。棺の前に卓(机)を置き、香炉・ロ
    ウソク立てを用意します。
     この時に「棺書」を蓋の裏に貼りますが、この土地では「棺書」を
    貼るかわりにお手次ぎの住職が「おくり」を入れます。
  • 入棺勤行(丁寧にすれば、この時近親者で入棺勤行のお勤めをい
    たしますが、略する事が多く なり、よって前述の「おくり」を入れるこ
    とも略されています。)
  • お勤めは、正信偈舌々・短念仏・回向。
  • お勤め前の用意、お内仏と棺前にロウソクを立てます。

 


            W 通夜(夜伽)

  • 夜伽(よとぎ)とも言い、字のあらわすとおり親近者が遺骸によりそう
    ようにして、一晩葬儀までお見守りするというのが、通夜の意味であ
    ります。近年では、この時を縁として時間を定めてお勤めをし、有縁
    の方々と共々に『聞法の座』としています。
  • 住職と遺族、参詣者共々御本尊に向かって正信偈を唱和いたします。
  • お勤めは、正信偈草四句目下・三陶・三首引・回向。または、同朋奉
    讃式です。終って、住職からご法話をいただきます。
  • お勤めの用意。棺前にロウソクを立てます。(白のロウソク)

            X 葬儀

 古来真宗では、枕直しの勤行・通夜・出棺勤行までを、自宅のお内仏の前で行い、出棺勤行を終って肩入れ式の後、葬列を組み、路念仏とともに火葬場に向かいます。火葬場に到着すると、そこに適当な場所で野卓(のじょく)を設けて、最後のお勤めをしたのが葬場勤行です。
 現在では、葬場勤行まで全て家の中で行うことが通例となりました。しかし、その意味あいを失わないことが大切なことであります。ことに、家にしつらえる壇飾りの基本となるものは、火葬場に設けた野卓でありますから、勤めてその意味あいも失わないようにしたいものです。
 特に近年は野卓の意味を忘れ、次第に華美となり大型化しています。
 また、不必要な飾り物・ミニ庭園を造るなど本来の仏教における荘厳とはずれてきていることは、憂慮すべきことであります。



            Y 出棺勤行(内づとめ)

  • 家で勤める最後の勤行であります。本来は、この後、葬場へ向けて出
    発となります。現在は葬場勤行まで続けて家で営みます。
  • お勤めは、勧衆偈・短念仏・回向(我説彼尊)
  • この土地の習慣として、偈文の「世尊我一心」の調声が終わって、この
    時女性のみが焼香をしていたのですが、近年めっきり少なくなりました。
    (女性に対する優しい配慮がうかがえた習慣でしたが、無くなるのは残
    念です。)
  • お勤め前の用意、お内仏に立燭(白のロウソク)

            Z 肩入れ式・出列・路念仏

  • 出棺勤行が終わると、本来は「肩入れ式」が行われ、いよいよ葬列を
    組み、路念仏と共に火葬場へ向けて出列となります。現在は、葬場勤
    行まで家で行うため「肩入れ式」は略しています。
  • 出棺勤行が終わると、葬場勤行へと移りますので、その準備をしなけ
    ればなりません。

            ・お内仏並びに御代様の灯明・ロウソクを消し扉を閉めます。

            ・棺を野卓に移します。(今は、既に移してある。)

            ・葬場勤行は、野卓の前で勤まりますので、その前でお勤めができるように場所を空けます。

            ・きん・きん台・僧侶の履き物(ゾウリ・スリッパ等を用意する。)

            ・野卓のロウソクをたて、金香炉、一般焼香用の香炉に炭火を用意する。

            ・この土地の習慣として、葬場勤行前のこの時に弔電を披露します。


 
● 弔電は遺族に対し葬儀にやむなく出席できないために出されたものであり、必ずしも披露する必要はありませんが、披露する場合は、儀式のさまたげにならないような配慮が必要です。披露の場所は司会席で行い、敬称は不要。なるべく簡略に済ませたいものです。

● 弔辞作法は、はじめに導師に合掌。次に棺前合掌し、読み上げた後、帰りは導師に軽く頭礼して退席します。 (焼香は必要なし)

 


           [ 葬場勤行

  • 本来は火葬場到着後、野卓をしつらえ、三具足を置き、最後の別れ
    の勤行を勤めたのが、葬場勤行です。現在はほとんど家で勤めてい
    ます。
  • お勤めは、路念仏・正信偈中読・短念仏・和讃・回向。
  • 導師焼香後の合掌に合わせて全員合掌します。
  • 弔辞がある場合は、導師焼香・(本山代香)の後に引き続き行います。
    ※前もって御導師の住職に相談しておくこと。
  • 「五却思惟之摂受」の調声が終わって、喪主以下焼香する。
    (呼び出しの司会者は、合図を待つ)

             ●真宗大谷派の葬儀における正しい焼香と合掌の仕方



 名前を呼ばれたら、自席を立って御導師に正対して合掌礼をした後、野卓の棺前に設えられた香炉の手前で、ご本尊を仰ぎみて一礼
します。
 次に香炉前に進み出て右手で香盒の香をとり焼香を2回いたします。(大谷派では香を頂くことはいたしません)そして、香盒の香の乱れを直してから、必ず念珠に右手を通して合掌します。掌を解いてから頭礼をして退き自席に戻る際に、御導師に一礼してもとの席に帰ります。(合掌礼は必要ありません)

 

  • 最後に喪主あるいは葬儀委員長が挨拶をします。略する時もあります。
  • 住職が火葬場へ行かない場合、この時灰葬勤行を勤めます。

          

 

    式 次 第

1 法中(僧侶)参列

2 三匝鈴(打上・打下・打上)

3 路念仏

4 三匝鈴(打下・打上)

5 導師焼香  
  
導師に合わせて全員合掌。
  本山代香

6 三匝鈴(打下) 
  ※
弔辞のある時はここで行
      う。

7 正信偈 中読又は真読 
  ※
五却思惟調声後、喪主以
       下一般焼香呼び出し。

8 短念仏(三重念仏)

9 和 讃

10 回 向

11 法中(僧侶)退席

12 灰葬勤行

13 喪主挨拶

14 閉式の辞

 

   


            \ 出棺

  • 葬場勤行が終わり、式が終了すると出棺となります。遺族・親族がお別れ
    をして、棺を霊柩車にのせます。
  • 野辺送りをする人は自動車に分乗して火葬場へ出発します。

            ] 茶毘・拾骨・灰葬・還骨勤行

  • 火葬場に到着するといよいよ荼毘にふします。昔はこの時「松明の式」
    といって手松明に火を点じて喪主以下順次棺に火を点じました。
     この時住職にお願いしてあれば、火葬場でお勤めをしますが、各寺院
    のご都合をお伺いしてください。
  • 火葬が終了すると喪主から近親者が順次白骨を拾い骨箱に納めます。
    (拾骨)
  • 拾い終わったら野卓に遺骨を安じ「灰葬勤行」を勤めていましたが、現在
    はほとんど略し、家に帰ってから「還骨勤行」と兼ねて勤めています。
  • 家に帰ったら床の間に設えてある中陰棚の上段の骨堂にお骨箱と一緒
    に安置します。その際に頭骨は別にしておいてください。

    ・立燭の上「還骨勤行」を勤めます。

    ・お勤めは、正信偈中読・短念仏・三重念仏・和讃・回向。

     ●清めの塩は用いません

 
 
 火葬場から帰って家に入る際に、清めの塩を用いたりすることは、真宗ではいたしません。何かがとりついているなどと、むやみに死を忌み嫌ったり恐れたりすることこそ明 らかにして行かなければならないことです。

 

 


      ]I   初七日の法要

  • 現在は、還骨勤行に続いて初七日法要を引上げて勤めます。 

    尊前に卓を用意して、焼香ができるように準備しておく。
     住職の読経中に、案内があれば順次焼香をする。

  • この後、近親者に一連の葬儀執行の労をねぎらう精進料理の膳が振舞
    われ、続いて、近所の方々に対してもねぎらいの膳が振舞われていまし
    たが、田鶴浜では、「還骨勤行」までに、近所の方々(手伝い)に対する
    膳を先に済ませて、親近者のご膳を後にして、近所の方々の帰宅時間を
    短縮する方法をとっています。

 この後、7日通い・49日の忌明法要や年忌法要とがあるわけですが、少々長くなりましたので一端休憩させてください。続投のご要望があればまた続けたいと思います。


home